ある雪の日のI.Y選手の悲哀
令和3年一月の初旬に発生した豪雪により其の影響をわずかに受けた男の悲哀をここに綴ります。
我々競輪選手はレース前日に前検日といって、開催場となる競輪場で、身体及び自転車の検査を受け、合格しなければレースに参加できません、そして、その集合時間も決められていて、特別な理由がない限り、遅れれば契約解除などの厳しい措置を取られる事となります。
更に、現在、レースへの参加は新型コロナウィルス感染症対策のため、できる限り自家用車で単独での参加を心がけるよう指導されています。
その悲哀のI.Y選手は1/8前検の広島競輪に参加予定であったが、前日7日より突如降り出した雪は想定外の積雪で交通機関に多大な影響を及ぼしていた為、車での移動は断念してJRでの参加に一縷の望みをかけ、切り替えた。
電車なら多少の積雪はあっても運行はしてくれるはずだと判断したらしい。
なので当初、車で運ぶはずだった自転車などの道具や衣類を自らの手で運ばなくてはならなくなった。
自転車やそれに関わる道具は輪行バッグといって、専用の革製の丈夫なバッグに分解して収納し持ち運びます。
←画像のように綺麗に収まります。
(画像のイケメンは俵パイセンです)
しかし自分のバッグは競輪場に置いており外はかなりの積雪である、
そこで、I.Y次選手は近所に住んでいる高校時代からの同級生で仲の良い K永選手に問い合わせたところ、この積雪の中、競輪場まで移動するのは危険だからと快く自分の輪行バッグを貸してくれた。
ここで、とりあえずレース参加の為のアイテムは揃った。
I田選手の次の懸念はJRの運行のみとなったが、もう出発のその時まで待つしかなく、
一旦一息ついて、外も暗くなった頃に自転車の詰め込み作業に入った。
…ところが
…入らない
…バッグ閉まらない
…半分ほどの部分が剥き出しになってる
「やっちまった〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」
一人暮らしの部屋にこだまする叫び声
身長10センチほどの体格差のため自転車のサイズが大きく違うのである
そりゃあそうなる
(小は大を兼ねない)
しんしんと降り続ける雪の中静かに部屋で絶望に包まれ一人佇んだに違いない
それでも我々競輪選手は前検日には遅れる事なく参加しなくてはならない。
そう!なんとしても参加しなくてはならないのである!
翌日、JRはあれ程の積雪の中でも通常に近い状態で運行してくれており、I.裕J選手は積もった雪の中を半分剥き出しになった輪行バッグをコロコロと無言のまま押して、最寄りの駅から小倉駅に向かい、そして新幹線に乗り広島競輪前検日に通常通りに間に合うことができた。
だが、半分剥き出しの自転車と全身から溢れ出す悲哀のオーラは周囲の誰にも伝わることもなく、降り頻る雪と共に好奇の目を集めたのは言うまでもない。
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